10人いれば10通りの農とのかかわり方があります。
小諸市農ライフアンバサダーの武藤千春が、この地で農を営む
オモシロ農家の生き生きとした活力溢れる農ライフをお届け。
今回のオモシロ農家 #07 久保産直会 小池 宏昌 さん
—なぜ小諸、なぜ久保産直会
武藤 まずは、自己紹介をお願いします。
小池 久保産直会で、大玉トマトと白土馬鈴薯を生産しています。小池宏昌です。
武藤 小池さんは、農業を始めてからどのくらいですか?
小池 新規就農して、今年で5年目です。小諸市の農業大学校を卒業しました。
武藤 なぜ、この小諸で農業をやろうと思ったんですか?
小池 もともと出身が軽井沢町で。軽井沢町って観光の町で、畑とかあまりなくて、田舎っていう田舎でもなく、都会っていう都会でもなくて。夏だけ、ひとがいっぱい来て混むじゃないですか。それがなんかやだなぁって思っていて。大学で東京に出たんですけど、東京もなんかやだなぁって思って。大学を卒業した後は、飲食店で勤務をしていたんですけど、夕方の5時から朝の5時まで年中無休で働いていたんです。その時に、「このまま人生終わるのやだなぁ」って思ったんです。それで紆余曲折あって、小諸市の農大の研修部に入りました。
武藤 そこからどうやって、久保産直会にたどりついたんですか?
小池 農大に入る一番最初の時、自分はぶどうをやろうとしていて、果樹コースでいこうと思っていたんですよね。そしたら、農大に入る最初の面接のときに「果樹をやるには元手が必要だから、やるなら野菜から始めて、その傍らで毎年少しずつ進めたらどうか」って言われたんです。だったら野菜の勉強するか、と思って野菜コースに入りました。
農大の先進農家研修というのがあるんですけど、そこで紹介されたのが自分の師匠にあたる80代のおじいさんとおばあさんの夫婦でした。トマトの支柱のいぼ竹の束があって、結構重いんですけど、それを肩に担いで畑の中を歩いている姿が衝撃でしたね。自分が久保産直会に入ったときには、80代のおじいさんたちがゴロゴロいたんです。「うわすごい」と思いましたね。
武藤 農家さんて80代でも、とってもパワフルですよね。
小池 そのおじいさんたちが「自分のトマトが一番美味しい」とか「今年は誰々のトマトが一番らしい」とか。表立ってはやらないけど、ライバル心というか、すごく競い合っていたんですよね。
武藤 お互いに高めあっていたんですね。すごい! 格好いいですね!
小池 そうですね。なんかそれが、すごくいいなあって思って。自分も「80歳になるまでやりたいなぁ」って思ったんです。居酒屋で働いているときには、具体的にこうなりたいっていうのがなかったんですけど。
久保産直会のトマトが美味しかったのもあるけど、この大玉トマトを東都生協に出荷し始めてから、もうすぐ50周年になるんです。歴史がすごくあるのに、後継者がいなくなっているのもあって…
その時にはもう、ぶどうのことは頭から抜けていましたね。
武藤 久保産直会のことで、頭がいっぱいだったんですね。
露地栽培の大玉トマト
武藤 栽培している品種はなんですか。
小池 これは「サンロード」という品種ですね。一般的によく売られているのは「りんか」「麗夏」とか「桃太郎」っていう品種です。
このサンロードという品種は、種が古くて30~40年前からある品種です。だから、食べると子どものころ、おばあちゃんの家で食べたような懐かしい味がするんです。栽培方法も昔ながらっていうのもあるんですけど。
武藤 作り方も、昔ながらなんですか?
小池 そうですね。昔ながらの路地栽培をしています。スーパーとかに並んでいるトマトの99.9%はハウス栽培なので、露地栽培でまとまった量を商品として集めて売っているのは、全国的にも珍しいですね。やはり、ハウス栽培のほうが雨にも当たらないし、水の管理もできるから、栽培がマニュアル化できるんです。露地栽培だと暑すぎたり、豪雨に見舞われたり。どんな作物もそうだけど、雹がふればボロボロになっちゃう。古い品種だから、病気に耐性もなくて病気になりやすい。だから生産量が追い付かないんですよね。
このトマトは東都生協に出荷しているんですけど、生協って組合員さんがいて、登録をしておくんですよね。でも今は、生協の組合員さんが注文しても3~4割しか届けられずに欠品になっています。それでも、「どうしてもここのトマトが食べたいから」って登録してくれている人が1万人とか2万人とかいて。
武藤 それでも露地栽培にこだわる理由って、何ですか。
小池 トマトって、ものすごく光を必要とする作物なんですね。だから路地にすることで、直射日光をたくさん浴びて美味しくなるんです。あとは、久保産直会のトマトを求めているお客様の期待が《昔からずっと続いている露地栽培のトマト》というところにあるから。全国的にもめずらしい露地栽培の希少性に、価値をつけてもらっているんです。効率とか収量とか抜きにして、そこに応えようとして、いまだに露地を続けています。