小諸オモシロ農家

10人いれば10通りの農とのかかわり方があります。

小諸市農ライフアンバサダーの武藤千春が、この地で農を営む

オモシロ農家の生き生きとした活力溢れる農ライフをお届け。


今回のオモシロ農家 #番外

2022年12月2~3日に、国内外最大のお米コンクール「米・食味分析鑑定コンクール:国際大会が小諸市で開催されました。

1日目には【ドハマり!私たちの農ライフ】と題して、武藤千春さんと市内の農家さんたちとのトークセッションは行われました。その内容をお届けします。


-自己紹介-

武藤:皆さんこんにちは。武藤千春です。私は、東京と小諸の二拠点生活を送りながら、今年からは小諸市農ライフアンバサダーに委嘱していただき、農の魅力を発信しています。本日はトークセッションのコーディネーターを務めまして、皆さんと一緒に、小諸の農の魅力やその先の可能性についてお話しできたらと思っております。

今日は、「ドハマり!私たちの農ライフ」と題して1時間ほど、セッションを進めたいと思います。よろしくお願いいたします。

それでは、パネリストの皆さんをご紹介します。お一人目は、「食べることで綺麗になれる米づくり」をされている、米農家の清水博人さんです。

清水:自己紹介の前にちょっといいですか。この度は皆さん、お米コンクール入賞おめでとうございます。私は米づくり7年目でわからないことばかりで、勉強勉強の日々です。皆様の背中を見ながら、頑張ってまいります。今回登壇させていただくのですが、どうか温かい目で見守っていただければと思います。よろしくお願いいたします。

武藤:結構、緊張されてますね笑

清水:そうですねぇ…。大先輩方を前にすると。

武藤:そうですよね。皆さん、50年、60年、70年の長さでお米を作られていますもんね。

清水:サッカーで言えば、皆さんはペレとかマラドーナとかレジェンド級の方々です。

武藤:普段取り組まれている農ライフや、農業についても教えてください。

清水:私は皆さんと同じように7年間米づくりをしてきていますが、ひとつだけこだわりがあるとすると「体の内側からキレイになる食べ物をつくりたい」ということです。そんな思いで、お米と向き合っております。

 

武藤:続きましては、「古久庄 村松商店」の副店主の村松さんです。

村松:この小諸で、米屋をやっております村松丈徳と申します。よろしくお願いいたします。

武藤:小諸の皆さん、みんな知っている人気者ですからね。

村松:農家さんからお米を買って、精米して選別してということを昔からやっている米屋です。農家さんとの付き合いをずっとしてきた米屋です。そういったところから、お話ができればと思っております。

 

武藤:そして3人目は長野県産の南高梅栽培に取り組む、NPO法人信州アグリトライアル代表の吉澤さんです。

吉澤:皆さん、よろしくお願いいたします。「米の品評会に、どうして梅屋がでてくるんだ」と思われるかもしれませんが、梅自体はお米と結びつきが強いと思っております。南高梅の北限探査というところから小諸で梅栽培を続けてきましたが、そのなかでも「日本のこころであるお米」というものを感じてきました。そんな立場から、お話しできればと思っております。

 

武藤:そして最後が、宮嶋りんご園の宮嶋伸光さんです。よろしくお願いいたします。

宮嶋;宮嶋と申します。よろしくお願いいたします。小諸市でりんご農家の長男として生まれまして、僕で3代目となります。一番古い木は、昭和2年におじいさんが植えた木が10年くらい前まであったんですが、僕が伐採しました笑

いまは、イタリアの南チロル地方に行ったり…。イタリアはりんご栽培の先進地なのですが、そういったところに研修に行って技術を取り入れながら、日本に合う形でのりんご栽培に取り組んでいます。りんごが好きすぎて、品種なんかも「ディグり」すぎて、りんごのお酒にまで手を出しています。2019年には、お酒の会社も立ち上げています。よろしくお願いいたします。

武藤:皆さん、よろしくお願いいたします。


-小諸の農の魅力-

武藤:ここにいる皆さんは、小諸の地で、農に魅了されて畑に出たり、農に携わったりしています。小諸で農に携わっているからこそ感じる魅力があると思います。清水さんは、ご出身は小諸ですが、ご両親が農家だったというわけではないですよね。

清水:そうですね。両親は、兼業で農業をやっていましたね。だから、子どものころから田んぼや畑にいくことはあったんですが、遊びにいくというか、カエルをとりにいったりするような感じです笑 だから自分が「将来、田んぼを耕す」なんていうことは想像もしなかったです。だから、不思議なんです笑

武藤:村松さんは普段から、「小諸の米は、本当においしい!」とお話されていますよね。

村松:色々な関係者の方がいらっしゃるなかであれなんですけど…。長野県庁の方に、もっと長野県の米のアピールを頑張ってもらいたいんです笑 全国の方からすると、りんごやそばが長野県のイメージだと思うんですが、長野県のお米って全国でも一番なくらいおいしいとおもってます。

清水:私も村松さんのところで精米をお願いしているんですが、やっぱり全然違うんですよ。本当にこだわりがすごくて、その日その日の気圧によって品種を変えたり…。

村松:そうですね。「米屋なんていらない」と思われるかもしれませんが、精米って結構大事なことで。農家さんが精魂込めておいしく作ってくれたお米を、きちんとした状態で届けるっていうのが我々の使命なんです。

この地域は、長野県全体のデータでも戦後ずっと、一等米比率で1位なんです。反別収量も全国1位。農薬の使用量も非常に少ない。

武藤:私も長野県に来るまで、長野県のお米がこんなにおいしいっていうことを知らなくて。コンビニで売っているおにぎりを見ても「新潟県産」だったり、都会に暮らしているひとにとってのメジャー地域が圧倒的に多いですよね。来てみて初めて知る「お米のおいしさ」という感じです。清水さんも米づくりのなかで、そういったところ感じますか?

清水:僕なんかまだまだひよっこ農家ですが、水の違いを大きく感じます。お米って「水稲(みずのいね)」と書くんですが、それくらい水と密接な関係を持っています。飲み水としてもおいしい水を、米づくりに使っているんですよね。

武藤:米づくりでは、長野県や小諸の地っていうのは、かなり環境が整っている?

村松:気候風土は恵まれていると思います。小諸は軟水・硬水どちらもあり、水源が豊富です。お米は東南アジアが原産というイメージがあるので、多雨な感じがいいのかなと思われるかもしれません。でも実際には、田んぼに満々と水があればいいので、降るときだけ降ってもらえばいいんです。そういう面では、高い山を抱えているこの地域、特に晴天率も日本一になったことのある小諸は、雨が降ることは少ないけど水は枯れることがない。

武藤:色々な面から見ても、良い環境なんですね。面白いですね。長野県で様々な農産物が作られているなかで、吉澤さんは梅をつくられています。小諸では、「豊後(ぶんご)」という寒冷地に多い固い品種がつくられているようですが、吉澤さんは南高梅をつくられているんですよね。私のイメージだと「紀州の南高梅」という感じで、和歌山とか西のイメージがあります。そんな南高梅を寒い小諸で栽培するという挑戦を、15年前から取り組まれているわけですよね。

吉澤:すごい理論的にまとめていただいていて恐縮です笑 農環境に良さについて、私なりにも感じる部分があります。浅間山麓には針葉樹が多く、豊かな腐葉土があります。雨が降ると、水がその地層を伝って田畑まで流れてきます。この山麓から田畑までの距離が、非常にいいのではないかと思います。2000mの高さから、不純物が混ざる間もなく、すぐに流れてくる。水がいいわけですよね。土壌についても、1㎡あたりの微生物の豊かさが全国トップレベルであるということが分かっています。また、地球温暖化の影響で、農産物の北限が進んでいます。そんな環境と気候があいまって、私は小諸で農の取り組みをつづけています。

武藤:土や気候という風土という面から、小諸は、農の挑戦をするのに適した環境だったということなんですね。

吉澤:そう思います。ただ、私の子どものころと比べれば、同じ小諸でも気候は大きく変わっています。果樹にとっての2度3度の変化は、非常に大きな影響を持ってきます。そのあたりの影響は、老舗のりんご農家さんの方が詳しいかもしれませんね。

武藤:宮嶋さんは、おじいちゃんの代からりんご園をやられています。きっとおじいちゃんの代のりんご栽培の方法と、いまのつくり方って違うと思うんですよね。さきほどおっしゃっていたような、イタリアの方法論を取り入れたりんご栽培をやられているわけですから、同じ宮嶋りんご園のなかでも、様々な挑戦があったんだと思います。そのあたりと、小諸の地の相性というのは、どうですか?

宮嶋:僕の父が、「農業といっても、同じやり方でやり続ければいいわけではない」という考え方で、新しいものを取り入れていかないとどんどん衰退していってしまうと言っていました。「需要もどんどん変化していく。生産者としても、それに対応して変化していかないといけない」という考え方なんですね。

村松くんが言ったように、小諸というところは雨がすごく少なくて、起伏が激しい土地なんですね。なので、台風の被害が意外に少ない。「台風直撃しているのに、ぜんぜん風吹かねぇーじゃん」みたいな。だから稲も倒れないし、りんごも落ちない。そういう面では、農業やその挑戦には恵まれた環境です。

とはいえ、僕もりんごをつくり始めて20年経つんですが、気象的な農災害っていうのは確実に増えています。ひょうが降ったり、夏の気温が上がり過ぎてしまったり。りんごは1年1作なので、最後まで無事につくれるっていう年が、減ってきてしまった。「今年も、気象災害があったよね」「何かしらあったよね」っていうのが、ここ何年か続いています。全国的な傾向ですよね。


課題をポジティブに-

武藤:自然と共にあるのが農業なので、毎年毎年が違い、同じ一年はないですよね。農家の皆さんは、気候の変化をはじめ、日々様々な課題と向き合いっています。今日集まっていただいた皆さんは、そういった課題を前向きに捉えて、どう対処するか、そしてどう発信していくかということを活動されていますよね。

私も小諸にきて、畑をはじめました。アカデミックなことを何も勉強しないまま、とりあえず感覚で種を植えてみて…というところから、色々な出会いがあって「農業って、こんなやり方があるんだ」「こんな携わり方があるんだ」っていうことをすごく感じました。世の中では、農業のネガティブなニュースが多いですが、実際に農村でアクティブに活動されている方々と話してみると、「その課題、コミュニケーションとったり、楽しんだりすることで、意外と簡単に解決するのでは?」っていうことがあります。

清水:僕は課題だらけですね笑 今年で言えば、雑草ですね。農薬を使わずに育てているので、草の成長がすごいんです。皆さんの10分の1くらいしか、収量がとれないんです。その分のブランディングが大切になってくることもあります。

村松:いまは、新型コロナウイルス感染症に関する影響もありますね。こだわって作ってらっしゃる皆さんのお米でも、安値になってしまう。日本人の米消費量が減るなかで、宴会などがなくなったことで更に減りました。その結果、米余りとなって価格が下がってしまいました。農家さんの収入は安定しませんよね。苦労が報われるような値段設定ができれば一番なんですが、色々な問題が山積しています。

吉澤:お米っていうのは、あまりに身近過ぎるがゆえに、存在感がない。存在感がありすぎて、逆に意識されない。そんな状況があると思っています。私たちは、食事の際に手を合わせて「いただきます」とやるわけですが、いったい誰に向かって言っているのでしょう? わたしは、やっぱりお米農家さんなのではないかと考えています。神様や仏様っていうのもありますけれど。祭事や供物っていうのもだいたいお米に関連しているんですよね。本来であれば、ブランディングなんてものは必要ないほど大切で身近なはずなんですけどね。

武藤:確かに、お米に限らず、どの農産物もそれ自体に価値があります。だけど、365日どの野菜でも果物でも食べれてしまういまの時代では、なかなかその価値を感じ辛いのも事実です。ゆえに、ブランディングが難しいというのはありますよね。

吉澤:反対に、武藤さんにブランディングや農の魅力についてお聞きしたいんです。住む場所として小諸を選ばれてから、きっかけがあって農業をスタートさせたと思うのですが、武藤さんのような年齢の若い女性が、どんなところに魅力を感じて農ライフをはじめたんですか。そういった情報は、いま農業をやっている色々な世代にとっても、大切な情報だと思うんです。

武藤:ありがとうございます。本当に、小諸に来るまでは、農業を身近に感じたことはなかったですし、畑にも田んぼに足を踏み入れたことがなかったですよね。農産物も、「スーパーに一年中・四六時中あるもの」という認識でした。でも、実際に農村に足を踏み入れてみて、更には自分で野菜を育てはじめて、色々なことに気づきました。「農作物があるのはそれをつくっている農家のみなさんのおかげ」「同じ作物でも、作るひとによって味が全く違う」「時期により、食べられる野菜が異なる」。皆さんにとっては当たり前かもしれませんが、私にとってはそうではなかった。そして、私と同じような感覚の若者はたくさんいると思っています。

農家の皆さんは、それぞれの哲学をもってその道を究めています。本気でやろうと思えば、天気・土・水から始まって非常にたくさんのことをやらなければいけません。その姿は、素直にカッコいいと思いましたし、それを知らなかったこれまでの自分の人生はなんだったんだろうと…笑 「農家さんってこんなにカッコいいんだよ!」と友人たちに話をすると、興味をもって聞いてくれます。そういう意味では、ただ「知らないだけ」。うまくその魅力を知ってもらうことが大切で、それこそが、農業の最終的な課題なのかなと思っています。

宮嶋さんも、りんご栽培を突き詰めながら、海外の地で学ぶことによって「りんごって、もっと価値があるのに!」という想いをもったと思います。そこから、りんごからつくるお酒「ハードサイダー」を手掛けるところまで、いきついていますよね。日本の農業の現状、りんご農家の現状をぶち壊したい!といった感覚があったんじゃないですか。

宮嶋:農家さんたちの前で言うのもあれなんですけど…笑 農家って「作るのは上手いけど、売るのは下手」ってことが、とても多いです。

武藤:これまで、売ることを担ってくれた存在がいたっていうことですよね。

宮嶋:大きな産地の農家ほど、その地域のブランドに乗っかってしまって、このブランドづくりを意識していないことが多いんです。りんご産地としての小諸は、長野県の産地のなかでも一番標高が高いので、市場の価格が下がってから出荷ができるような土地。農協さんを頼っただけでは、農家は生きていけないんです。だから、個々の農家がブランディングをしている。観光農園が多かったのもそういう理由ですよね。ブランディングなんて言葉を意識していないかもしれないけど、売らないと生きていけないから笑

武藤:その産地ごとに、その農家ごとに、ブランディングにも違いがあるということですね。

宮嶋:いまSNSって、ものすごい力を発揮してくれていて。みんな見ているんですよね。自分たちがやっていることに関心を持ってくれるし、反応をしてくれる。農業の姿を伝える方法として、かなり浸透してきたと思います。

武藤:課題もありますけど、やりがいを感じますよね。

 

―続く―