ワインと農に魅せられ、自然に囲まれた小諸の地で、

ブドウづくり、ワインづくりへ情熱を注ぐ生産者がいます。

その想いを、自身もワインづくりに取り組む

小諸市農ライフアンバサダーの武藤千春がお届けします。

 


#08 Domaine Fujita

 

ーワイナリーを引き継ぐ

織田:このワイナリーはもともと藤田正人さんがやっていたものです。昨年の6月に亡くなられたんですが、

耕作放棄地を開墾して、醸造所まで作っちゃった、ものすごいパワフルな人でした。

 

武藤:藤田さんがおいくつくらいの時ですか?

 

織田:62、3歳くらいだったと思います。

 

武藤:パワフルすぎる。

 

織田:高校の社会科教員だった藤田さんは、生徒さんに”生きた授業をしたい”。と言って世界中を旅していたんです。

その時にワインに出会ったそうです。千曲川ワインアカデミーの1期生でワイン造りを学んでいました。

 

武藤:なんで小諸だったんですか?

 

織田:畑の景色に運命を感じたそうです。

とにかくパワフルな人。耕作放棄地の開墾から醸造所まで。全部やり遂げたすごい人です。

昨年の春に体調を崩されたんです。楽観的な方だったので、なかなか病院にも行っていなかったようです。

病院の検査で大きな病気が見つかって、そのまま入院になってしまったんです。

当時、研修で月に一回ほど小諸に来ていたんですが、藤田さんが急に入院されて、畑を頼まれたんです。

ご本人も治療をして、病気を治して帰ってくると、秋には戻ってくるっておっしゃっていたので引き受けることにしました。

自分は名古屋出身だから小諸まで通っていたんです。電話で指示を聞きながら畑の作業をしました。

亡くなる直前に「仮に治って戻ってきても前と同じように作業できる自身がないから譲り受けてほしい」と相談されて、

悩んだけど、引き受けることを決めました。そこから始まったんです。

ーブドウ造りを始めたきっかけ

武藤:織田さんが小諸で研修を始めたのは何がきっかけだったんですか?

 

織田:自分は千曲川ワインアカデミーの7期生だったんです。アカデミーで藤田さんのところが研修生を募集しているって

聞いて、その繋がりです。いきなり引き継ぐことになってしまったんですけど。

引き継いで最初の2か月くらいは何をどうしていいかわからず、自分なりにやったら病気も虫もでちゃって、結果として前年の

半分の収量になっちゃったんです。醸造もやったことなかったからできなくて。

てんやわんやでうまくいかないことだらけでしたね。

でも、事情を聞いたテールドシエルの池田さんと桒原さんが醸造を引き受けてくれて。

テールドシエルさんも昨年はものすごく忙しかったのに、やってくれて本当に感謝しかないです。

今年こそは自分で醸造したいと思って、昨年少量ですが練習したんです。量も違えばプロセスも変わっちゃうんですけどね。

 

武藤:楽しみですね。

 

織田:そうですね。失敗するかもしれないけど、その時はその時。本当に楽しみです。

今回、全部をやってみて思ったのが、一人ではできないんだなって。手伝ってくれる人がたくさん来てくれたから出来たんです。

今年は、手のかけ方を失敗したなって思っています。

畑作業は基本的には手間を惜しまずかける主義なんだけど、そうすると必ず後回しになる部分が出てくるんです。

だから、丁寧に作業することは間違ってはないけど全体を考えると本当にそれでいいのかなって。

スピードを優先して、手を抜くところは抜くっていうのをわかってなかったんです。

武藤:でも、いきなりこんなに大きな畑と木を持つとなると大変ですよね。

 

織田:そうですね。普通はブドウの木と一緒に自分もだんだんと成長していくんですけど。

 

武藤:農薬とかはどうされているんですか?

 

織田:除草剤は使いません。防虫剤もほとんど使わないです。でも病気の対策で殺菌剤はちゃんと撒きました。

撒けなかったのが昨年の反省点だったので。それだけは今年ちゃんと撒きました。

ちゃんと撒いても、畑によって差が出ちゃったんですが、何の差かっていうと、手のかけ方です。

薬がちゃんといきわたるようにする準備が足りなかったです。

でも、今年は少なくとも二つの畑は収量も状態も最高の出来でした。

手間をかければこうなるっていうことが分かったので、いかに追いつかない部分をなくすのかっていうのが

来年の課題です。

武藤:もともとなんでワインを始めようと思ったんですか?

 

織田:農作業に昔から興味を持っていて、農業を中心に生活できたらいいなって思っていました。

でも、何をつくっていいかわからなかった。

お酒が好きで、日本酒の醸造とかやってみたらいいかなって思って10年くらい岐阜県でお米を作っていたんです。

なにを栽培するか模索中にワインに出会いました。ワインって80%が農業で、そのあとに醸造もできるし。

これだって思って千曲川ワインアカデミーに通ったんです。実際名古屋にも畑を借りて、やり始めていたんです。

その矢先にこっちが先行して、まさに急展開です。この3年間でいろんなことが次から次に起きたんです。

 

ー糠地での暮らしと今後

織田:糠地に住み始めて約1年たつんですが、本当に皆さんウェルカムな感じで。

よそ者なのに受け入れてくれるし、歩いていると声をかけてくれるんです。

操作が慣れない農業機械を道に落としちゃったときも、溝にタイヤをはめちゃったときも。

積極的に助けてくれました。

すごくあったかくていいところなんです。楽しく生活ができています。

 

武藤:ご近所付き合いって本当に大事ですよね。

 

織田:自分一人では何にもできないんですけど、ワインのすごいところは、人と人をつないでくれるなって。

本当に人が集まってくるんですよね。ワインに関心があるからこそ集まってくる。ワインの力ですよね。

 

武藤:普通の収穫ボランティアと違うところって、多分ボトルになるっていう

過程に携われているのがいいんですよね。

収穫などの農作業だけでなく、結果としてのワインがあるからこそ、いろんな人と交流できるのがいいですよね。

 

織田:収穫をとおして、いろんな人と交流ができるのもいいですよね。

いろんな出会いがあるのもワインの魅力の一つだと思っていて。

それに自分は助けられています。

 

武藤:ワインって本当に面白いですよね。

今後の展望があれば教えてください

 

織田:今後は、藤田さんが遺したものを土台に、ドメーヌ・フジタの特徴を表現するようなブランドを確立したいです。

ドメーヌ・フジタって言ったらこれだよなっていうものを作りたいです。