小諸オモシロ農家

10人いれば10通りの農とのかかわり方があります。

小諸市農ライフアンバサダーの武藤千春が、この地で農を営む

オモシロ農家の生き生きとした活力溢れる農ライフをお届け。

 

今回のオモシロ農家 #05 田中 孝尚 さん・千華子さん

 


 

-おかめ農園はどんな農園

 

孝尚 花農家を始めて5年目。トルコギキョウ、スターチス、ひまわり、菊、草花系など約10種類の花を栽培しています。作ったものを市場に出して、関東近郊のお花屋さんで販売してもらっています。

 

武藤 なぜ、お花農家をやろうと思ったんですか。

孝尚 元々、妻(千華子さん)が花が好きだったていうのもありました。地元も近くで、ゆくゆくはこっちに帰ってきたいという話もしていて、それだったら「思い切って、何か始めようか」って話になり、長野県農業大学校の研修部に入りました。あとは小諸という地で、この川辺地区で農業をすると考えたときに、畑一つ一つ小さい環境では野菜の栽培は厳しいと思い、それで花をやろうと思いました。

 

千華子 このあたりは、信州切り花発祥の地で、昔は大産地だったんです。

 

武藤 へえ。知りませんでした。

 

孝尚 農大の研修で「あぐりの湯」直売所に出荷をしていたのですが、そのときにたまたま声をかけてもらったことが、川辺地区で花を栽培するきっかけになりました。だけど、もうみんな高齢化で、花の栽培は衰退してしまって…。はじめは菊を育てていたのですが、菊はお盆とか彼岸とか物日(ものび)といわれるときぐらいしか値が上がらない。ほかのものと組み合わせないと経営的にも成り立たず、厳しさを感じました。色々と調べたんですけど、このあたりはやっぱり、お花農家さんっていないんですよ。本格的にやってるのって、うちぐらいかな。

 

武藤 やっぱり、小諸が花の産地だったこと、いまも花農家がいることが、あまり知られていないんですね。

 

孝尚 「花を育てる=農家」っていうことが、発想にないですよね。

 

武藤 お花屋さんとかでお話してても、農業のイメージないですもんね。

 


 

-農ライフの中でみつけたこだわり

武藤 花農家を始めて5年、毎年全く違う一年だと思います。試行錯誤しながらだと思いますが、「農ライフ」、農が暮らしの中心にある生活はどうですか?

 

孝尚 そうですね、やっぱり1、2年目っていうのは、苦しかった。次にどうやっていけばいいか、いろいろ悩んでいました。3年目あたりから、栽培するお花をいろいろと組み合わせていくことによって、新たな花農家のかたちが見えてきて、やっと方向性が少しずつ見えてきました。

 

武藤 「苦しい」っていうのは、自分たちのペースに合わせたやり方が、なかなかできなかったということですか?

 

孝尚 そうですね。技術的にも追いついてないし、自分たちの手際や要領の部分もそうです。あとは気候変動が激しいこともあって、育てる段階でも様々なトラブルがあり、うまくいきませんでした。2年目は、主要品目としていたトルコギキョウの市場価格が大暴落してしまい、花農家としてのあり方を見直すことになりました。

 

千華子 そんななかでも、いい縁があって、農家さんの知り合いもできました。色々なお話もでき、「こういうやり方もあるんだ」っていうことがわかり、花農家というものに対する自分たちの考え方が多様化していきました

 

武藤 いまお二人は、沢山の種類の花を、自分たちの暮らしに合わせながらつくられています。そのお花づくりのなかで、「こだわってるポイント」みたいなものはありますか。

 

孝尚 そうですね。自分は栽培担当なので、土づくりにこだわっています。花の業界には、考え方が古い部分があって。野菜だったら土には消毒をしないで、いろんな微生物を入れたりという有機栽培をしてらっしゃる方が多いんですけど、花には、そういうことにこだわってつくってる方が少ないんですよ。

 

武藤 へえ。そうなんですね。

 

孝尚 基本的に土づくりは、野菜と考え方は一緒です。化学成分をいれたり、消毒したりとかっていうことに、ものすごい抵抗感があります。できるだけ多品種栽培にした理由も、輪作する事によって、連作による土へのダメージの軽減に繋がるからです。また、有機物を入れて、花持ちをよくすることを心がけています。

 

武藤 土づくりにこだわると、やっぱりお花の出来も変わってきましたか。

 

孝尚 野菜ほど大きな違いが出ないかもしれません。野菜は、味とかみれば一発でわかるんですが…。でも、花もちはだいぶ変わってきましたね。

 

武藤 そこにこだわるだけで…「だけで」っていうのもおかしいですけど、皆さんに楽しんでもらえる時間がもっと長くなるわけですね。

 

孝尚 あとは、一つの花として見たり飾ったり、そのあとはドライフラワーにしたり。できるだけ、色々な用途で楽しめるものを多めに取り入れて、栽培しています。

 

武藤 花農家になって5年目、これからもどんどん試行錯誤をしていきながら自分たちの好きなものだったり、届けたいものをいろいろ作っていくと思います。「今後、こんなことをチャレンジしてみたい」とか「こんなふうにやってみたい」みたいなイメージはありますか。

 

孝尚 つくるだけじゃなくて、それをまた作品にして、売り出したいですね。ロスフラワー(=規格を外れたり、鮮度がおちたりして廃棄予定の花)が出ても、そういうものまでお客さんに届けたいです。

 

武藤 試行錯誤してつくったものでも、どうしてもロスになってしまうことがあるんですね。皆さんのもとに届かないまま、捨てられてしまうの、もったいないですもんね。

孝尚 花の世界では、規格外だと「そんなみっともない花」みたいな感じになっちゃうんですよ。ほんとに、ある決まった見た目だけで判断されちゃう規格に沿うと「ちょっとだけ短かった」、「ちょっとだけ小さかった」というそれだけで駄目になっちゃう。そういった花をちゃんと作品にすることによって、それでもいいって言ってくださる方に、ちょっと安く販売する。そういうものでも、できるだけ価値をつけて、今までただ捨てていただけの花が、ちゃんと商品として届けられるような形とか仕組みが、できればいいかなって思っています。